【こうして進む物忘れ・第2回】「年のせい」と「病気」の境界線。拒否する親をスムーズに受診へ誘うヒント

「年のせい」と「病気」の境界線、知っていますか?
こんにちは。「えらべる介護」の藤本です。今回から、ミヤちゃんに代わってこのコラムを担当させていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。 前回は、もうすぐ80歳になるお母様のリアルな「検診拒否(手のひら返し)」のエピソードをお届けしました。「うちの親も全く同じ!」と共感された方も多かったのではないでしょうか。 本人が拒否している間は「見守る(メモを取る)しかない」とお伝えしましたが、家族としては焦る気持ちもありますよね。 今回は、知っておきたい「病的な物忘れ」のサインと、受診を嫌がる親をスムーズに医療機関へつなげる工夫について、介護の現場視点も交えながら考えていきましょう。
■ 「年のせい」と「病気」の決定的な違い
よく「体験の一部を忘れるのは年のせい、体験のすべてを忘れるのは病気(認知症)」と言われます。
・年のせい:「朝ごはんに何を食べたっけ?」と思い出せない(ヒントがあれば「あ、焼き魚だった」と思い出せる)。 ・病気の疑い:「朝ごはん?食べてないわよ」と、食べたこと自体が記憶から消えている(「さっき一緒に食べたじゃない」と言うと怒り出すことも)。
また、前回のエピソードにあった「会話の主語が抜ける」というのも大切なサインです。 単に名前が出てこないだけでなく、「会話のつじつまが合わなくなってくる」「お釣りの計算ができず、財布が小銭でパンパンになる」「季節に合った服が選べない」といった、日常生活の「段取り(実行機能)」に支障が出始めたら、病的な物忘れのサインかもしれません。
■ 頑固な親を「受診」へつなげる4つのアプローチ
「私は大丈夫!」と受診を拒否する親を無理に病院へ連れて行こうとすると、関係がこじれて逆効果になります。大切なのは、本人のプライド(自尊心)を傷つけないことです。多くのご家族が実践してうまくいったアプローチをご紹介します。
【1】「みんなが受けるもの」にする 「物忘れ外来に行おう」と言うと身構えてしまいます。「自治体の高齢者健診の案内が来たから」「〇歳(節目の年齢)だから、みんな受けるシステムなんだって」と、“あなただけが特別に疑われているわけではない”という形にします。
【2】「かかりつけ医」から言ってもらう 子どもが言うと「うるさいわね!」となる親も、お医者さんの言葉には素直に従うケースが多々あります。事前に高血圧や持病で通っている主治医に連絡を入れ、「最近物忘れが気になるので、先生から検査を勧めてもらえませんか」と根回ししておく方法です。「念のための検査」としてスムーズに受けてくれることがあります。
【3】「家族の健康診断」に付き合ってもらう 「実は私が最近、物忘れがひどくて心配だから、病院に付き合ってほしいの。ついでにお母さんも一緒に診てもらおう?」と、主語を「家族(自分)」にします。親の「子どもを助けてあげたい」という心理に働きかけるアプローチです。
【4】「自費サービス(脳ドックなど)」を賢く利用する 保険診療で「物忘れ外来」に行くのはハードルが高くても、全額自己負担の「自費サービス(脳ドックや認知症専門のスクリーニング検査など)」をプレゼント感覚で利用する手もあります。 多少のお金はかかりますが、「子どもからの長寿祝いのプレゼントだから」「最新の頭の健康診断チケットが当たったから」といった理由にすることで、本人が「病気扱いされている」と感じずに、前向きに検査を受けてくれるケースが増えています。
■ 焦らず、でもアンテナは張って
受診につながるまでは、本当に一進一退です。前回の記事でお話しした「日々の様子のメモ(日時や状況)」があれば、いざ受診となった際、医師に正確な状況を伝える強力な武器になります。
私たち「えらべる介護」でも、こうした受診前のご相談や、これからの介護に向けた備えのサポートを行っています。一人で抱え込まず、まずは焦らずにアンテナを張りながら、その時を待ちましょう。
次回は、いざ受診するとなったら「何科に行けばいいの?」「どんな検査をするの?」という、具体的な受診のステップについてお話しします。
この記事を書いた人
藤本 千鶴子
保有資格:介護福祉士/福祉用具専門相談員/両立支援コーディネーター
藤本 千鶴子 | 『えらべる介護』代表 / 訪問介護現役サービス提供責任者 現役のサービス提供責任者として、日々多くのご家庭を訪ね、介護の最前線で利用者様やご家族に寄り添い続けている。 現場で直面してきたのは、制度の狭間で悩むご家族の姿や、「もっと早く知っていれば」という切実な声。それらを一つでも減らし、誰もが納得して道を選べる社会をつくりたいという想いから、ポータルサイト『えらべる介護』を設立。 「人の手によるぬくもり」と「福祉用具という確かな技術」。その両方を上手に活用することで、利用者様が「その人らしく日常を過ごすこと」を支える介護の重要性を発信している。家族が一人で抱え込まず、プロの力と道具の力を借りながら、誰もが明日へのゆとりを持てる仕組みづくりに奔走中。

